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Uの風邪
- 2008-12-13 (土)
- U
508 :1/4 ◆be9A0p55Gw :2008/11/18(火) 19:03:37 ID:lqPZHCvb0
投下させていただきます。気づいたのですが、友人Sと、Uの彼女S子のイニシャルが
かぶっており、ひょっとして読みづらい?と思ったので、
Uの彼女に「沙織」と仮名させていただきます。
————–
Uが風邪を引いた。十月だったと思う。
「ああ、空気が寒くなって来たな……」という時期のことだった。
と言っても、大した風邪ではなく、鼻をすする程度だったが、
バイトは接客業なので、一応、Uはマスクをしていた。
ちなみに、Uは昼~夜という感じで、ほぼ連日シフトに入っており、
僕は大抵夕方~夜だ。なので、時間の一部がかぶる。
給料日直後だったので、Uを飲みに誘うかな、友人Sも入れて……とか考えていたのだが、
Uが風邪を引いていたので、「やっぱ無理?」と確認した。
Uは鼻声ながらもバイト中は割と元気そうだったので、「いや、行けるよ」と言う返事が
返って来るのを期待していた。
しかし、Uが、「ちょっと予定が……でも、K(僕)も来る?」と言う。
「え、予定って、お前まさか」と問い詰めると、案の定、
彼女の沙織が、Uのアパートに、鍋の用意をしてやって来るのだと言う。
彼女と遊ぶのに友人を誘う男がどうなのか、ここでは云々しないことにする。
遠慮しようかとも思ったのだが、僕の知らないうちにいつの間にか付き合いはじめ、
「え、言ってなかったっけ?」式の確信犯で打ち明けられたことを思い出し、
あえてそこは「あ、鍋ね。いいね、鍋!」と、お邪魔することにした。
我ながら、少し性格が悪かった気がする。
509 :2/4 ◆be9A0p55Gw :2008/11/18(火) 19:03:58 ID:lqPZHCvb0
いっそ友人Sも誘おうと、バイトの休憩中にこっそりメールで、
「Uと沙織の邪魔しに行こう。鍋やるらしいから乱入だ」と持ちかけたのだが、
Sから返信がなく、仕方なく、僕だけで行くことに。
さすがに手ぶらはどうかと思ったので、何鍋でもイケると思われる
豆腐と白菜、ビールとかジュースを買い込んで、Uとともにアパートへ行った。
アパートには先に沙織がいて、鍋の準備をしていた。
僕に向かって「なんで来たの?」と言い、やや不機嫌になる。
Uはまじめに、沙織が怒る可能性のことに気づいていなかったらしく、うろたえていた。
そんな感じで始まった鍋だったが、実際に食べる段になると、
さすがに雰囲気も和やかになってくる。
僕も言い訳のように、「鍋食ったら帰るし!」とわざとらしく連呼していたので、
それで沙織の機嫌も直ったのだろう。
しかし、Uの風邪がひどくなって来た。
鼻をすする程度だったものが、声がかなりかすれて来て、見るからに顔が赤くなっている。
本人は「そんなに具合悪くないよ」と言い張るのだが、
沙織が熱を測らせたところ、38度ぐらいあった。
これはヤバイというので、Uからアルコールを取り上げ、
さっさと鍋を食って寝ろと促すのだが、なかなか寝ようとしない。
なんとか布団に押し込んだころには、夜の十二時をとっくに回っていた。
「それじゃ、俺、帰るから」と、気まずくなった僕は、さっさと退散することにした。
が、鍋道具ぐらい片付け手伝って行くかと素早く洗物を済ませていたところ、
なんと、ほぼ忘れかけていた友人Sが遅れて乱入して来た。
510 :3/4 ◆be9A0p55Gw :2008/11/18(火) 19:04:34 ID:lqPZHCvb0
友人Sに「乱入しない?」と誘ったのは僕だが、まさか返信もせずに乱入してくるとは
思っていなかったので、驚愕した。
なんでもどこかで遊んでいてメールに気づくのが遅れたらしいが、
駅からの帰り道にあるUの家に寄ったらしい。
笑いながらも確実に不機嫌な沙織。状況がわかってない友人S。慌てふためく僕。
しかも、Uが起き出して来てしまった。
UはSを見るなり、「どこ行って来たの」と言う。
Sは「Nの方」と答えた。
そこは一般的には乗り換え駅で知られており、あまり降りる用事もないところだった。
Uは具合が悪いと言うよりは、熱に浮かされた感じだった。
Sを眺めたまま、しばらく黙った。
Uが「見える人」であることはこの場にいる全員が知っていたので、
僕を含め、「もしや」と言う空気が流れた。
と、唐突に、Uが一続きのお経かなにかのように、語りだした。
「墓、墓に行っただろう。墓石が見える。すごく広い墓地だ。いや、行ったんじゃなくて、
迷い込んだ? どっちでもいいけど、S、お前、墓で写真撮っただろう。
その写真、なにも写ってないぞ、お前が期待してたようなやつは。
でも、そのせいで怒ってるのつれてきたな。帰れ、帰れ」
で、Uは布団に戻って行った。
一同唖然。
今までもUが「いるよ」等言うのは聞いたことがあったのだが、
ここまで具体的に言いつつ、しかも「帰れ」とか言うのをはじめて聞いた。
Sに確認してみると、「当たってる」とのことだった。
511 :4/4 ◆be9A0p55Gw :2008/11/18(火) 19:04:56 ID:lqPZHCvb0
Nには、他の用事があって行ったのだが、帰る際に、駅の近くの大きな霊園に
迷い込んだのだと言う。
僕ならそこで怖がるところだが、Sは写メを撮って普通に帰って来ていた。
Sはもっと具体的なことを聞こうと、Uと話したそうだったが、
このあたりで沙織が「Uは風邪引いてるから、また明日ね」と冷淡に怒り出し、
僕とSは追い払われた。
翌日、Uに電話してみたが、やはりあまり具合は良くなさそうだった。
しかも、昨夜自分が言ったことをさっぱり覚えていなかった。
「え、そんなこと、俺言った?」と言うので、僕は、詳しく話した。
Uは電話の向こうで、首をひねったようだ。
「おかしいな。俺、そんなことまで見えたことがないのに。
いるな、とか、そういうのはわかるんだよ。
見えたことから、霊がなにをしたいのかがわかることもあるけど、
Sの行動をそこまで言い当てるのは無理だ。俺、なにが見えたんだろう……?」
と、まじめに不思議がっていた。
Sにはその後特別なにも起こらなかったが、それは彼が一応、
「すんませんした」と、自分で撮った写真に向かって謝ったかもしれなかった。
これは、今でもUは不思議がっている。
酒が出るとUの陽気な部分が開放されるが、もしかしたら、熱が出てると、
Uのそういう能力が開放されるのかもしれない。よくわからないが。
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男
- 2008-12-13 (土)
- U
478 :男1/5 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:58:19 ID:IF+vTYjV0
上の話の後日談です。
—————
先日、T橋に肝試しに行った。
肝試しと合コンを兼ねた「彼女ゲット!作戦」だったのだが、見事に失敗してしまった。
僕は終始わけがわからないというかビビっていたし、
Sは合コンが終わった直後にはもう別の女の子を追いかけている始末で、
そしてUは酔ってしでかした失敗のことを心底後悔しているらしく、彼の中では、
あの合コンは「終わったこと」と言う扱いになっているらしかった。
その後、一週間か二週間ほどは、ごく平穏な日常が過ぎた。
しかし、ある日、突然、大学でS子に話しかけられた。
「ちょっと相談があるんだけど……」
T橋に一緒に行った、気の強い女の子だ。
S子とファミレスに行き、話を聞いた。
なにやら、「あの日から、ちょっとおかしなことが起こる」らしい。
意外に思った。なにしろ、あの場ではS子は女の子たちの中で一番冷静だったからだ。
よって、そんなに後を引いて怖がっていると思っていなかった。
「あのさ、怖くなかったわけないじゃん。私が泣いたりしたら、R子とかH子が
ほんとに怖がっちゃうでしょ!?」要するに、強がっていたらしい。
「でも、そういうのじゃなくて……なんか本当に変なことが起こるんだ。
夜、部屋の中に誰かがいる気配がする。部屋とか玄関に塩を盛ってみたけど、
朝見るととけてどろどろになってる。夏で湿気が多いからって、おかしい」
479 :男2/5 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:58:51 ID:IF+vTYjV0
「でも、それだけじゃ……気のせいじゃ? 俺だって、部屋の中に気配を感じるぐらいは
あるけど」と、僕が言うと、S子はむきになった。
「でも、部屋の中に誰かがいるんだよ。閉めたたんすの扉が開いてたり、
後、ベッドが妙に湿った感じになってたりとか……怖いんだって!」
僕に言わせれば、たんすの扉は単なる閉め忘れだし、ベッドの湿った感じも、
夏だから仕方ないよね、としか思わなかった。
が、あまりにS子が必死になって主張するので、なにも言わずに聞いていた。
「ねえ、あのUって人、もう一回会えないかな?
ちょっと見て欲しいんだけど……お願い!」
S子に頼まれて、僕は仕方なく、その場でUに電話した。
Uは家にいたらしく、すぐに出た。なにかしている最中らしく、最初は上のそらと言う
感じで僕の話を聞いていたが、そのうち、重い感じで「うん、うん……」と真剣に
相槌を打ち始め、最終的には、黙り込んでしまった。
僕が、「S子はUに見て欲しいらしい。どう?」と聞くと、Uは、
「……あまり力になれなくてもいいなら、見る」と、言った。
ちょっと意外に思った。神社行け、ですまされるかと思ったからだ。
しかし、Uは例の件に責任を感じているらしかった。
S子はそれでも構わないというので、Uと僕とS子で予定を調整し、明後日、
三人でS子の部屋に行くことになった。
S子の部屋は、大学からほど近い場所にある。
Uと僕は、大学のあるところの隣の県に住んでいるので、電車に乗って出かけた。
S子は地方出身で、一人暮らしだ。
S子の部屋へ入ると、Uの顔色が目に見えて悪くなった。
いかにも女の子の部屋、と言う感じの部屋だが、ワンルームで広くない。
玄関を入ると、もう部屋全体が見回せる。
480 :男3/5 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:59:13 ID:IF+vTYjV0
「ごめん、きみについてきたんだな……」と、Uがぼそっと言った。
僕からは、なにも見えなかった。
しかし、Uによると、部屋の中にいるらしい。
「え、どこら辺……?」と、僕が訊くと、Uはちらりと窓際の方を見た。
それから、「匂い、しないだろ?」と言う。
匂い? と、僕は「?」となった。
彼は玄関脇に置いてあるお部屋芳香剤を眺めた。
「この芳香剤、切れてるの? そんなことないよね」と、S子に尋ねる。
「そういえば……気づかなかった」と、S子。
芳香剤があるのに、なんの匂いもしない。そのことに気づけ、と言うことだったらしい。
僕は突然、背筋が寒くなるのを感じた。
と言うか、女の子の部屋と言うのは、大概なにかの匂いがするものだ。
身につけている香水の匂いであることが多い。
S子も普段、軽く香水をつけているのだが、その匂いすらしないのはおかしかった。
「結構、匂いでわかることもあるよ。嫌な匂いがすると、嫌なのがいるとか」
らしい。
S子の部屋を確認すると、玄関脇の盛り塩と、窓際の盛り塩がとけていた。
それから、確かに、しけっている感じのする部屋だ。
カーペットも足にへばりつく感じだし、ベッドも妙にしめっている。
「気のせい」ですますには、なんとも薄気味悪かった。
S子が言うには、前は普通の部屋だったと言う。
481 :男4/5 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:59:37 ID:IF+vTYjV0
ここまで確認したところで、S子はすでに半泣きだった。
「ねえ、どうしよう? どうすればいなくなるの? お払いしてくれるの?」と。
Uはしばらく部屋をうろうろしていた。
それから、S子に、「大丈夫、そんなに強くないやつだから。なにもできないよ。
それに、俺がつれて帰るからさ」と言った。
つれて帰る? と、僕が尋ねようとしたまさにその瞬間、
Uは窓に向かって語りかけ始めた。
「そんなとこでなにしてんの? 女の子ビビらせて楽しい? 性格悪そうだもんな。
黙って突っ立ってるぐらいしかできないくせにね。
あ、怒った? この前も俺が怒らせたよね。なんで俺についてこなかったの?
怒ったってなにもできないでしょ? 馬鹿みたい」
相当な暴言だ。見えないなにかに向かって暴言を吐いている。
僕とS子がぽかんとする間にも、Uの暴言は続いている。
ちなみに、Uの顔色は悪く、やや声が上ずっていた。
しばらくして、一通り見えないなにかを罵倒したUは、「もう大丈夫」と言った。
S子は「へ?」と言う感じ。
「俺の方に気をそらしたし、俺に来るよ」Uはあとは黙った。
その場はそれでお開きとなったが(Uが早く帰りたがった)、僕としては電車に
乗っている間、気が気ではなかった。
Uは電車の中でも黙っていた。
今この瞬間にも、Uはなにかを見ているのだろうかと思った。
別れ際に尋ねた。
「なあ……ついてきたの?」
482 :男5/5 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:59:57 ID:IF+vTYjV0
「ついてきてるよ」Uは暗い顔で頷いた。
「え、ついてきてるって……」と、僕はあらためて絶句した。
「そんなに強くないから、俺についてきてるんだったらどうにかできるよ。
それに、俺が酔っ払って失敗したのが、そもそもの切欠だからね。
S子さんについて行ったのは、多分、彼女と波長とかが合ったんじゃないかな。
しばらく我慢してれば、どっかに行くと思う」
Uはそう言って、帰って行った。
しばらく後で尋ねたところ、霊は数日間Uのところに居座っていたらしいが、
Uが徹底的に無視っていたところ、消えたらしい。
S子は、それ以来部屋に気配を感じることもなく、湿気も改善したらしい。
そして、後日談として、UとS子がいつの間にか付き合い始めていた。
思えば、UとS子は、メアドを交換していた。
そこから仲良くなったらしい。と言うか、S子が押せ押せで、Uに迫ったらしい。
うらやましいというか、悔しいと言うか、僕が二人の仲立ちをした形になった。
Uは「S子さん(未だに「S子さん」と、名前+さんで呼んでいる)が、
禁煙しろとうるさい」とぼやいているが、そんなもん知るか、と言う話だ。
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橋
- 2008-12-13 (土)
- U
470 :橋1/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:52:12 ID:IF+vTYjV0
以前、洒落怖の方に投下させていただいたのですが、
誘導されていたこともあるので、こちらに投下させていただきます。
——-
僕のバイト仲間に、Uという男がいる。
彼はいわゆる「見える人」だ。
本人いわく、見えるだけで本格的なお払いもできないし、基本的には
怖がることしかできないと言う。
僕とUはバイト上がりの時間に、しばしば二人で飲み屋に行く。
男二人で酒が入ると、「お互い彼女もいない。さびしいなぁ」という話になることがあった。
Uは女の子が苦手で、まともな付き合いをしたことがないらしい。
彼は僕より四つ年上だったから、当時二十五だったのだが。
しかし、なんとなく納得できる話だ。Uは顔が悪いとか、服の趣味が変とか、
そういうことはないのだが、とにかく人見知りが激しく、口数が少ない。
女の子が相手となると、苦手意識からその傾向が加速し、極端に無口になってしまうらしい。
実際、バイト先の女の子には、Uは怖がられているか、ウザがられている。
酒が入った時のUは、普段のUが想像できないぐらいの愉快な奴になるので、
いっそ合コンにでも行けば、彼女ぐらいできるのではないかと思うのだが、
合コンに誘ってくれる知り合いがいないらしい。
かく言う僕も、人のことをどうこう言えるほどモテる訳ではない。
で、お酒が入ると、彼女が欲しいなぁーとか愚痴が始まる。
471 :橋2/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:52:48 ID:IF+vTYjV0
Uは酔っ払った勢いか、その時、僕に「大学の女の子を紹介しろ!」としつこく
絡んだ。
その場は、「はいはい、紹介できる女の子がいたら自分で彼女にするし」で
すませたのだが、数日後、ふと思いついた。
つまり、Uは「見える人」で、季節は夏なのだから、心霊スポット凸でも
企画して、女の子と一緒に行ったらどうか、ということだ。
吊り橋効果という奴だ。一緒にドキドキ体験をした男女は、それを恋愛感情と
錯覚し、相手を意識してしまうというあれだ。
これはイケるんじゃないか?と、僕はバイト先の休憩室で、Uにそのことを話した。
しかし、Uは煙草を吸いながら、冷淡な反応を返すだけだった。
「心霊スポット? 悪いけど、遠慮したいかな」などと、しばらく前に「女の子を紹介してくれ」と
騒いだ男と同一人物とは思えないほどの引きっぷり。
「そういう場所には近づかないことにしてるし、女の子と一緒だと少し面倒くさい」
と、Uはなかなか頷かなかった。
実際は面倒くさいのではなく怯んでいるだけなのはわかっていたので、
僕は粘り強くUを説得しにかかった。
休憩室でやるとさすがにどうかと思ったので、その日Uのアパートでだが。
つまり、本音では彼女が欲しいんだろうと。
下世話な話だが、ただきっかけがつかめないだけで、それさえあれば、
彼女ができるかもよ? と。
最終的には、Uはうろたえながら「まあ……そうだけど」などと事実を認めた。
しかし、ここに至っても心霊スポット凸だけは嫌がった。
472 :橋3/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:53:31 ID:IF+vTYjV0
曰く、
「そんな場所に行ったら、女の子に頼られる前に俺が気絶するかもしれないし、
そうなったら目も当てられないだろ」とのこと。
しかし、心霊スポットと言っても、そんなに怖いのがいないところを選べばいい。
例えば、噂だけが一人歩きしている場所だ。
絶対にそんな場所があるに違いないと思っていたので、僕はしつこくUを説得した。
というのも、僕も彼女が欲しかったからだが(わかってもらえると思う)、
それに加えて、Uに「そっちの世界」を少し案内して欲しいな、と言う好奇心からだった。
Uは普段、極力「そういうこと」を口にせず、話題にするのも避けている節がある。
酒が入れば口が軽くなり、怪談めいたものを聞くこともあったが、
僕自身は、そういうものを体験したことがなかった。
Uは僕の説得に負け、最終的には悲壮な顔で「わかった行くよ」と頷いた。
一応、「かわいい女の子よろしく」と念を押されたが。
翌日から、僕は下調べにかかった。
僕が父から車を借りれば、ある程度遠出もできる。
そこで、市内でも田舎方面にある、T橋と言う場所に行くことにした。
T橋は、T川にかかる小さな橋で、田んぼの真ん中にある。
ここには女の霊が出るという噂があった。
夜中に通りかかると、手を上げて車を止めようとするらしい。
地元の人間の間では、「ああ、なんか聞いたことがあるような?」という程度の
スポットで、そんなに有名なところではない。
Uと一緒に事前の下見に出かけたところ、昼間に行ったせいか、それとも
本当にいないのか、Uが言うには「そんなものはいなそうだ」とのことだった。
(しかし、Uがその時に橋から目をそらし気味だったので尋ねると、
「別のはいるけど、そんなに危なくなさそう」と言った)
473 :橋4/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:54:17 ID:IF+vTYjV0
しかし、夜中に来れば真っ暗で、そこそこ怖いに違いない。
僕は大学の友人を誘って、肝試しに出かけることにした。
女の子は三人、仮にS子、R子、H子とする。一応、全員彼氏がいない。
S子は気が強いタイプで、ものをずけずけ言う。
R子はとにかく楽しいことが大好き。
H子はちょっとけだるい感じの口の利き方をする子だった。
この三人は仲がよく、いつも一緒にいる。
女の子が三人になってしまったため、数合わせに友人Sを呼んだ。
こいつは無神経なほどに騒がしい奴なので、盛り上げ役にもなるだろう。
Sは二つ返事で、僕の誘いを承諾した。
いざ当日、僕とUとSは八時ごろ集まった。
心霊スポット凸するのは夜十時を過ぎてからなのだが、その前にやることがあったからだ。
つまり、Uを酔っ払わせることである。
これはある種の親切心からやったことで、黙り込んでいる男よりも、
笑いまくる男の方が、女の子も楽しかろうという配慮だった。
もちろん、Uのためにも、そっちの方がいいだろう。
Uは酒を飲むのを嫌がっていたが、そこは強引なSがビールやらをすすめ、
気づいたときにはUはすっかり酔っ払っていた。
夜十時ごろ、女の子たちを駅に迎えに行く。
Sが「Sでーす!」と自己紹介すると、すかさず酔ったUも「Uでーす!」と自己紹介。
別人のように明るい男に変貌していた。
僕が運転する車で、まずはファミレスに。
そこで女の子たちと軽く盛り上がってから、十二時を過ぎたところで、そろそろ
行きますか、ということになった。
474 :橋5/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:54:46 ID:IF+vTYjV0
ファミレスでもビールを飲ませていたので、相変わらず、Uはご機嫌だった。
Sは「H子ちゃんかわいくね?かわいくね?」とうるさい。
UはUで、R子とゲームの話題で盛り上がっている。
僕は運転しながら、隣のS子と会話していた。
「今から行くとこってどんなとこ?」とか、「超田舎だよねここ」とか話していると、
不意にS子が「あのUって人ちょっといいかな~」などと言い出した。
ちくしょうU、モテやがると思いながらも、「お酒が入ってないと別人みたいに
暗いんだけどね!」と、微妙な妨害工作。
ただ、S子的にはUが喫煙者であることがNGであるらしかった。
あたりは本当に田舎の風景で、明かりも少ない。
おまけに田んぼの中の農道のようなものを走っているため、対向車はまったくなかった。
現場近くに車を止めて、いざ外に出ると、ものすごく暗い。
「マジ暗えー」とSはハイテンションで、Uもまだドラクエの話をしていたが、
女の子たちは軽くビビリモードに入り始めた。
R子は「田んぼに落ちそう」とか心配していたし、H子は微妙に無言に。
S子は「虫がいっぱいいんですけど!」とむしろ虫にビビっていた。
橋のたもとには、地蔵がある。小さな祠に入れられた奴で、橋の近くでよく見る、
赤い前掛けみたいのをつけたやつだ。
普段は「あ、地蔵だね」ですむものが、夜の静けさの中で目にすると怖い。
僕もビビりはじめていたが、残りの男二人がやけにハイテンションなので、
格好悪いところを見せたくなくて、無理に明るく振舞っていた。
問題の橋に近づいた時に、事件が起こった。
突如、Uが橋の横の田んぼあたりに向かって、
「こんばんはーっ!」と挨拶し始めたからだ。
ぎょっとする一同。
475 :橋6/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:55:27 ID:IF+vTYjV0
一番早く立ち直ったSが、「なにかいるの、そこ?」とUに尋ねた。
Uは「いるいる、男の人だね!」と当然のように答える。
あ、これは見えてるのか……と、突然、僕はぞっとした。
騒然とする女の子たち。「えっ? な、なに? 男の人? いないし!」
「すっごいこっち見てるよ。大丈夫! ついてきても俺がなんとかするから!」
Uは笑いながら、僕たちを道の端に手招きした。
そんなことを言われても困るので立ちすくんでいると、SがのこのことUの隣に立つ。
「どこ? どこらへん?」
「もっと向こうの方、川に近いところ。あ、なんか怒ったかも……やべっ!」
「え、怒った?」
「あ、あー、怒った! S逃げよう! 逃げよう!」
ここまで、わずか三秒ぐらいの出来事。
さっき「俺がなんとかするから」とか言っていたUが一目散に車に向かってダッシュする。
ここでパニックに陥った僕と女の子も、車に向かって走った。
飛び込むようにして車に乗る。H子が泣き出した。
Uは窓の外を見ながら、「塩、塩……」と鼻歌でも歌うようにつぶやいていた。
やや遅れて駆け込んできたSを乗せて、僕たちは尻に帆をかけてその場を逃げ出した。
無我夢中で車を走らせ、よく事故らなかったという感じで、Uのアパートに到着。
時刻はまだ深夜一時ぐらいだった。
部屋に着くと、女の子たちは茫然自失という感じ。
僕も正直、なにが起こったのかよくわからず、黙っていた。
UとSは顔を寄せ合って携帯を見て、なにかぼそぼそしている。
ややあって、Uがやっぱり明るい調子で、「大丈夫、ついてきてないから」と言った。
S子が「は? ついてきてないって霊がってこと? てかなんもいなかったよ」と言う。
476 :橋7/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:56:01 ID:IF+vTYjV0
確かに、僕にも見えなかった。
「男の人、多分水死したのかな? 川のそばにいたけど、そんなに強くない霊みたいだったし、
気にすることないって。怒らせたけどさ」と、U。
「え、まずくね?」と、びびりながら僕が言うと、Uは大丈夫大丈夫という。
「怒らせたの俺だし、来るなら俺の方に来るよ、多分。心配だったら塩がいいよ、塩」
ここら辺で、俺は女の子たちに、Uが「見える人」であることを告げた。
女の子たちは半分パニックに陥っていたからだ。
案の定、Uが「見える人」=「霊能者」だと思ってくれたらしく、ちょっと安心したようだった。
(実際は、見えるだけでほぼなにもできないらしいのだが……)
Uは部屋の隅の方に盛り塩し、女の子たちにも、心配だったら、玄関のあたりに
塩を置いておくといいよとアドバイスした。
その日は雑魚寝で過ごし、翌朝、女の子たちを駅に送って行った後で、
UとSが僕に携帯を見せてくれた。
昨夜、Sは逃げる間際に霊がいる辺りに向けて写メを撮っていたらしい。
道理で、Sだけがちょっと遅れて車に乗り込んで来た訳だ。
Uは気まずそうで、その話はもうしたくないようだったが、こう言った。
「俺がSに、あの辺にいるって言ったところを、しっかり撮ってくれた」
写メは、単なる真っ黒の画面で、写真というか、携帯が壊れた?と言う感じだった。
477 :橋8/8 ◆be9A0p55Gw :2008/11/17(月) 14:56:32 ID:IF+vTYjV0
「なにこれ? なにか写ってるのこれ?」と、僕。
「Uが言うには、なにも写ってないのがおかしいってさ」と、S。
いくら夜に田んぼで撮ったと言っても、もっと画面に「むら」がなければおかしい。
と、言うのだが……。
「ところで、『怒った』って言ってたけど、本当に大丈夫なの?」と、問うと、
Uは、「昨日も言ったけど、ついてくるなら俺だよ。怒らせたの、俺だし……」と、
ちょっとあいまいな感じで言った。
この「あいまい」な感じとは、Uが自信がないことを言う時によく使う口調で、
本人的には普通に振舞っているつもりでも、あ、自信がないんだな、とすぐわかる。
が、怖いので、この時はそれ以上つっこまなかった。
このときはそれで終わったのだが、その後、またちょっとこの件に絡んで、
一騒動起こることになった。
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女
- 2008-12-13 (土)
- U
402 :1/14 :2008/10/30(木) 10:55:52 ID:tl4Q/2/Z0
おととい昨日と、二回ほど、あまり怖くない話を投下させていただきましたが、
僕がUから聞いた話の中で、一番怖かったものを投下させていただきます。
まとめたらやばいほどの長文(徹夜してしまった)になったので、もしお邪魔でしたら、
スルーしてくださるよう、お願いいたします。
————-
Uはいわゆる『見える人』だ。
そのことについては、僕もなんとなく遠慮して、あまり詳しくは聞けないでいた。
そもそも、Uはそういうことを話すのを、躊躇っている様子があった。
Sが僕を肝試しに誘わなければ、Uは決してそのことを告白しなかっただろうと思う。
ただ、酔った拍子にふと、「昔……」みたいな感じで、
Uが不思議な話をしてくれることがある。
そんな時は、喜んで話を聞くことにしていた。
Uがはじめて自分が『見える人』だと自覚したのは、意外にも遅く、
中学生のころだった。
それまでは体験したものと言えば、せいぜいが金縛りとか、誰かが歩いている音とか、
「気のせいだな」と思える程度のものだ。
ある日、Uが川辺の道を歩いていると、川をじっと眺めている女の人がいた。
帽子をかぶり、うつむいているので、顔は見えない。
その時Uは、「変だな」と感じた。
一見すると普通の女の人なのだが、どうもおかしい感じがする。
と言って、どこがおかしいかと言われると、はっきりとは言葉にできない。
「まあ気のせいだろう。ちょっと疲れているのかもしれない」と、Uは結論した。
その時期、中三で受験を控えていたUは、学校でも家でも勉強漬けの毎日を送っていた。
学校では休み時間も惜しんで参考書を開き、家に帰る間もなく塾へ行く。
家に帰って夕食を食べ、一時間ほど勉強して、床につく。
403 :2/14 :2008/10/30(木) 10:56:33 ID:tl4Q/2/Z0
Uが疲れを覚えるのも無理はない。彼の父親はエリート主義であり、
母親もまた教育ママであったので、逆らう余地などほとんどなかった。
しかも折悪しく、塾の模試の結果が微妙に悪かったので、余計に勉強を
急かされていた時期だ。
次の日、学校に通うため、川辺の道を通っていると、またあの女の人がいる。
昨日と同じ姿勢、同じ場所で川を覗き込んでおり、相変わらず顔は見えなかった。
「あ、ひょっとして、危ない人か……」と、ピンと来た。
昨日どうもおかしいと思ったのは、そのせいに違いない。
そこで、なるべくそちらの方を見ないようにして、通り過ぎた。
しかし、電車へ乗り学校へ行き、塾に通ってから帰ってくると、まだあの女の人がいる。
夜もだいぶ遅い時間なので、さすがに気味が悪かった。
女の人はやや猫背になって、道路に背を向け、立っている。
Uはぞっとして、そこを通るのをやめようかどうか、迷った。
が、ここから道を逸れるとなると、一度引き返さなければならない上に、
家までかなり遠回りしなければならない。
疲れていたUは、「明日もいたらやだなあ」などと思いつつ、
自分の足元だけを見るようにして、そこを通り過ぎた。
案の定というか、次の日の朝も、女の人はそこにいた。
通り過ぎるのが怖くて仕方がなかったのだが、今は歩いている人が他にもいたし、
その人たちも女の人を無視しているようだ。
Uも同様に、「なにも見ていない」と言う感じで、黙ってそこを通り抜けたが、
今日の夜からは違う道を使うことを決意していた。
その川辺の道は、通勤や通学によく使われている道で、
Uの家から最短距離で駅まで行こうと思うと、通らなければならない。
が、夜十時過ぎになると人通りも途絶えるので、もし女の人がまたいたらと思うと、
とてもではないが通る勇気が湧かなかった。
404 :3/14 :2008/10/30(木) 10:57:11 ID:tl4Q/2/Z0
そこで、やや遠回りして、別の道を使うことにした。
朝も、なるべくならその道を使わないことにしたが、寝坊などで通らざるを得ない時、
いつでもその女の人は定位置にいるのだった。
学校で、級友にそのことを話した。
通り道に変な女がおり、どうも薄気味が悪くて、道が使えない、と。
話を聞いていた周囲の級友は笑ったが、ふと、Wと言う女子生徒が、
「ねえ、その人、幽霊とかじゃない? おかしいよそれ」と言い出した。
Uはまさか、と思ったそうだが、周囲の級友たちがどっと盛り上がった。
ふざけ半分に、「マジ怖えー」等言っている。
Uは下らないこと、として真面目に聞かなかったが、授業中、ふと思い出した。
そう言えば、あの女の人は、いつも同じ場所で同じ姿勢をしているだけではなく、
服まで常に同じではなかっただろうか?
白いブラウスと、紺色のスカートに、帽子だ。
ありがちな服装のように思えて大して気にしていなかったが、
制服っぽくもなかったし、毎日同じ服を着ているのはおかしい。
思えば、通行人たちも、彼女を無視していると言うよりは、まるで
見えていないかのように振舞っていた。
通学路にあんな女が毎日立っていたら、誰かが警察に通報でもしそうなものなのに、
それもない。
気になりはじめると止まらず、余計に怖くなった。
しかも、級友たちが悪ノリをして、みんなでその女を見に行こうと言い出した。
Uはもちろん、やめてくれ、と断る。
が、「怖いのかよ、大丈夫だって、ヤバかったら逃げよーぜ」と煽られ、
まあそこは中学生の浅はかさで「怖くはないよ。わかったよ」と、応じてしまった。
405 :4/14 :2008/10/30(木) 10:57:45 ID:tl4Q/2/Z0
Uは私立の進学校に通っていたため、彼の地元を案内できる人間が彼しかおらず、
またその日は彼が塾に行かなければならない日だ。
なので、みんなで行くのは、日曜にしようと言うことになった。
日曜の昼間、級友たちを駅まで迎えに行く時、Uは迷った末に、
あの道を通って行ってみよう、と決意した。
もしかしたら、あの女は今日はいないかもしれない。確認しようと思ったのだ。
「晴れているし、いたって怖くないさ」と自分を励まし、その道を通った。
果たして、女はいた。
川を覗き込むようにして立ち、ブラウス、スカート、帽子と、いつもと同じだった。
Uは突然、この道を一人で通ろうと思ったことを後悔した。
女の髪は長く、背中の半ばほどまである。微妙にぱさぱさした髪で、
顔にかかった髪と帽子のせいで、表情はまったくうかがえない。
ブラウスから覗いた手や、スカートから伸びる脚には、血の気がほとんどなかった。
土気色だった。青茶色い感じの色で、それに気づいた途端、Uはさらに動揺した。
これまでのように、女を無視して通り過ぎようと思うのだが、
どうしてもちらちら見てしまう。
見れば見るほど、女が生きた人間なのか、それともそうでないのか、よくわからなくなった。
かかわってはまずい、と本能的にわかるのだが、なぜか視線をそちらにやらずにはいられない。
Uはなるべく足音を立てないようにしながら、それでいてできるだけ急いで、
そこを通り過ぎた。
身体の震えが止まらず、吐き気までする。
気のせい、気にしすぎ、と自分に言い聞かせるが、まったく効果がない。
406 :5/15 :2008/10/30(木) 10:58:25 ID:tl4Q/2/Z0
Uが駅に辿り着くと、級友たちはすでに集まっていた。
Uの目には、くだんの『女』を見に行く期待にはしゃいでいる級友たちが、
異次元の存在のように見えたそうだ。
今さらだが、Uは強く、「行くのをやめないか」と提案した。
級友たちは、最初、笑い飛ばそうとした。
それから、Uの尋常ではない怯え振りに引いたらしい。
最終的には、怒り出した。
『楽しい気分』に水を差されたのだから、まあそんなものだろう。
「電車賃使って来てるんだからさー、しらけるようなこと言うなよな」
「つかお前マジでびびってんの?」等、容赦ない言葉を浴びせられる。
Uは押されるようにして、『女』のいる場所に案内することを強要させられた。
どうにでもなれ、あの女を見たら笑っていられなくなる。
Uはそんな気持ちで、『女』の元へと級友たちを案内した。
あの道に近づくにつれて、再びUの気分は悪くなって来た。
やがて、道は川に沿って進むようになり、あの女が見えて来る。
Uは級友を振り返り、「ほら」と、目線で報せた。
恐ろしかったので、女からはかなり遠い位置で合図した。
が、周辺には特に通行人もおらず、ぱっと見てその女がおかしいのは、
遠目にも明らかだ。
級友たちはきょとんとしていた。「どこ?」などと、周囲を見回している。
Uはいらだって、「あそこだよ、ほら、いるだろ女が」と軽く指さした。
女は相変わらず、猫背気味に川を覗き込んでいる。
Uは不意に愕然とした。
級友にはあの女が見えていないのだ、と、突如悟ったからだ。
その証拠に、「なあ、どこだよ……」などと、まばたきしている始末ではないか。
Uは必死になって、「あそこだよ、見えるだろ?」と主張した。
407 :6/14 :2008/10/30(木) 10:59:16 ID:tl4Q/2/Z0
彼の目には、あの女がはっきりと見えている。
それが、級友に見えないはずはない。
しかし、級友たちは次第に呆れたような表情を浮かべるようになった。
Uはなにをどう言っていいかわからず、ただ「あそこにいるんだ」とだけ繰り返した。
級友たちの呆れ顔の中には、恐怖と警戒の目でUを見る目が混じり始めている。
『こいつ、なにが見えてんの……? おかしいんじゃないか?』
その目は、雄弁に級友たちの考えてることを語っていた。
Uは悔しさと、たった今、級友たちとの関係が壊れた絶望に、
込み上げる吐き気をこらえられず、その場で吐いたと言う。
それでも、級友たちは「きったねー!」などと冷ややかだった。
誰も吐く彼のことを心配せず、最初にUが『女』を『危ない人』だと思ったように、
級友たちもまた、Uを『危ない人』を見る目で見ていた。
気づくと、ばたばたと級友たちが走り去るところを、呆然と眺めていた。
Uは泣くのをこらえられず、その場でしばらくしゃくりあげた。
そんな自分を情けないと思うと、それがまた感情を高ぶらせる。
通りがかる人に、「大丈夫? 具合悪いの?」と尋ねられ、はじめて彼は
泣き止むことができた。
近所のおばさんらしき人だった。嘔吐物が目の前にあるので、急病かと思われたらしい。
Uは我に帰って、しどろもどろに、「ちょっと具合が悪くて……」と説明し、
「救急車を呼ぼうか?」との親切な申し出を断った。
実際、一度感情を爆発させたせいか、意外にすっきりしていた。
Uはなおも心配しているおばさんに頭を下げて、家はここから近いので、
ひとりで帰れると言い張った。
おばさんは一応納得したが、「具合悪いなら、寝てないとだめだよ」と
一言のこして、Uをちらちら振り返りながら去って行った。
408 :7/14 :2008/10/30(木) 11:00:13 ID:tl4Q/2/Z0
Uは空虚な気分で、家に帰るために歩き出した。
明日から、学校で彼にどんな目が向けられるだろうか。
今日のことはなにかの勘違いだったと言うことで、級友たちにうまく説明できないだろうか?
そのことばかり考えていたので、彼は最初、『女』の視線に気がつかなかった。
ふと気がつくと、『女』の前を通り過ぎるところだった。
『女』が振り向いていた。
首だけをこちらに傾けるようにして、髪の毛の向こうから、明らかにこちらを見ている。
目は髪に隠れて、Uからは見えなかったが、髪の毛の内側の目がこちらを凝視しているのは、
はっきりとわかった。
腰が抜けそうになった。どうやってその場を立ち去ったのか、よく覚えていない。
Uは自室のベッドの中で、布団をかぶって、しばらくガタガタ震えていた。
かなり時間が経って、夕方ごろになると、次第に冷静になって来た。
つまり、「俺が見たのは、本当に幽霊だったのか……?」と言うことだ。
前述したように、Uは受験勉強に疲れていた。
両親からことあるごとに勉強の調子を尋ねられ、テストがあれば
点数のことばかり注意を受ける。
自分でも、それに疲れきっていることはわかっていた。
それならば、もしやあの『女』は本当に幻覚ではないだろうか?
ストレスのせいで、精神的に参っていて、あんな『女』を見てしまったのでは、
ないだろうか?
一度疑心暗鬼に陥ると、もう止まらなかった。
409 :8/14 :2008/10/30(木) 11:00:42 ID:tl4Q/2/Z0
翌日の月曜、あの道を避けて学校へ行くと、級友たちがいつもよりぎこちなく
彼に挨拶する。
ひそひそと周囲でささやかれる言葉が漏れ聞こえてさえ来た。
「あいつ、ちょっとおかしいよ」「前からおかしいと思ってた」
「勉強のしすぎでさ、頭がちょっと……ほら、親もうるせーらしいじゃん」
噂はあっと言う間にクラスに広まった。
思うより、堪えた。周囲との距離があっと言う間に広がったようだった。
あからさまに、「ねーなにか見える? このクラスの中にもさー」などと、
好奇心と悪意の混じった質問まで投げかけられる始末だった。
当然、授業に集中できるはずもなく、Uはその日、またしても気分が悪くなり、
早退することになった。
彼は電車の中で、真剣に考えた。
あの『女』は自分の妄想で、本当はいないのではないかと。
自分が狂っているのかと思うと、居ても立ってもいられず、Uはフラフラと例の
川辺の道に向かっていた。
『女』を探してその場所へ行った。
『女』はいなかった。
Uはほっとするやら、拍子抜けするやらで、しばらくその場にたたずんでいた。
やはり、自分はストレスから変な幻覚を見ていただけで、
それを自覚したから、『女』のことが見えなくなったのだと思った。
Uはそのままとぼとぼと、家へと歩き始めた。
『女』が見えなくなったのはめでたいが、明日からいったいどういう学校生活を
送ればいいのか、見当もつかない。
クラスメイトたちの視線を思い出すと、それだけで憂鬱になる。
410 :9/14 :2008/10/30(木) 11:01:15 ID:tl4Q/2/Z0
しかし、次の瞬間、Uは声にならない悲鳴をあげて、へたりこみそうになった。
『女』がいた。
なぜかいつもの場所ではなく、違う場所にいたのだった。
『女』はUに気づいたのか、また首だけで振り返り、髪の毛の向こうから見ている。
Uは耐え切れず、走って逃げた。恐怖に負けて後ろを振り返ると、
『女』は顔をこちらに向けていた。
早退して来て、しかも帰るなりトイレでゲーゲーやっていたUを、
母親は体調を心配するというよりは、「勉強に差し支えるのでは?」と心配したらしい。
自室で横になっていたUのところまで来て、「体調管理がなっていない」と言ったそうだ。
Uの勉強に差支えが出るのは、あっと言う間だった。
学校では、一気に無口になったUにわざわざ話しかける級友もいなくなり、
小テストの点数もめっきり悪化する。
先生に呼び出されて、「成績が落ちているがなにかあったのか?」と訊かれ、
Uが答えられずにいると、「変な噂話があるが、一度病院に行ってみてはどうだ?」と、
暗に、そのころは今ほど一般的ではなかった、カウンセリングを勧められた。
もちろん、両親もUのことをなじった。集中力が足りないとか、
たるんでるとか、始終小言を言われた。
Uはこらえきれず、恐る恐る、『女』のことを両親に話した。
両親には理解してもらえなかった。
それどころか、性質の悪い作り話、言い訳と取られたらしく、
小遣いまで取り上げられることになった。
U自身も、この時は自分の頭が完全におかしくなったのだと思っていた。
周囲に相談できる人もなく、彼はますます追い詰められた。
最終的には塾すらサボるようになり、図書館など、ひとりでいられる場所に
長居するようになった。
411 :10/14 :2008/10/30(木) 11:01:55 ID:tl4Q/2/Z0
ある日、彼は母親の小言から逃げるように、自室に閉じこもっていた。
せめて少しぐらいは勉強の遅れを取り戻そうと教科書を開くのだが、
まったく手につかない。
気分転換に窓の外を眺めて、Uは悲鳴をあげた。
『女』が、窓の下の道路に立っていたのだった。
思えば、最後に見た時、『女』は場所を移動していた。
その時は『女』が移動したことよりも、『女』が見えたことに気を取られていたが、
それまで動かなかったものが動いたのだから、なにか理由があるに決まっている。
その理由が今判明した。
『女』はUについてきてしまったのだった。
いつから家の近くにいるのか、そこからもう動かないのか、
それともUの元へ来るまで動くのをやめないのか、彼にはなにもわからなかった。
彼の悲鳴に気づいた母親が部屋に入って来たが、狂乱したように窓の下を指し、
彼女には見えない『女』がいるとわめいている息子を見て、逆に母親が
腰を抜かしてしまう始末だった。
その夜、Uは一晩中ボソボソと言う声を聞き続けた。
夜半前までは、どうやら一階で両親が小声で相談し合う声らしかったが、
その後は、窓の外からの声だった。
「ねえ……ねえ……ねえ」と、呼びかけるような女の声だった。
本当に気が狂いそうで、朝日が昇るまで、Uはずっとベッドで震えていた。
Uは辺りが明るくなり、声が聞こえて来なくなったのを確認し、
そっと着替えて家を出た。
412 :11/14 :2008/10/30(木) 11:02:26 ID:tl4Q/2/Z0
家の前の道には、『女』がいた。昨日よりやや近づいているようだ。
Uは本当にどうしていいかわからず、その前を走って通り過ぎ、
思いつくままに、電車に乗った。
それから、学校の近くにあった神社に行った。
Uは半ば自暴自棄になって、なにを信じたらいいのかわからず、
ひょっとしてお札かなにかがあれば、『女』から身を守れるのではないか、と
思ったそうだ。
学校の近くの神社は割と大きく、普段からよく神主さんらしき人や巫女さんがいるのを
見かけていたので、そこならお札も買えるのではないかと思ったらしい。
神社に行くと、来るのが早すぎたらしく、まだ社務所も開いていなかった。
Uは神社の階段に腰掛け、呆然と時間が過ぎるのを待った。
やがて、神主さんのような人がやって来て、Uを見つけた。
子供がぽかんと座り込んでいるのを見て、なにごとかと思ったのか、
親切な口ぶりで話しかけてくる。
Uは問われるままに、「変なものが見えるので、お札が欲しい」と正直に打ち明けた。
神主さんはUの様子から、その「変なもの」がなんであれ、尋常ではないことが
起こっているのだな、と察したらしい。
「まあ来なさい」と社務所に案内され、詳しく話を聞かれたそうだ。
誰にも真面目に聞いてもらえなかった話なので、Uはそれだけで涙が出そうになったと言う。
話をすべて聞いて、神主さんは「それだけでは、私からはなんとも言えないが、
そう言うことに詳しい人がもうすぐ来るから、もう一度話してみるといい」と、
Uに勧めた。
その詳しい人とやらは、すぐに来た。
どうやら巫女をやっている人らしく、かなり若いきれいなお姉さんであった。
意外に思いながら、Uはもう一度同じ打ち明け話をした。
お姉さん、仮にAさんは、黙って話を聞いた後、こう言った。
413 :12/14 :2008/10/30(木) 11:02:54 ID:tl4Q/2/Z0
「話を聞くまでもなく、あなたには悪いものが憑いていますね。
見ればわかります。お払いをした方がいいと思いますよ。
悪いことは言いませんから、すぐにお払いを受けなさい。
目を合わせたのが、いけなかったようですね」
Aさんは、どうやら『見える人』であったらしい。
Uは午前中一杯を待たされた後(神社の人にも、いろいろ用事があったらしい)、
午後になってようやく、「お払い」とやらを受けた。
その時はほとんど茫然自失していたので、お払いの代金は? などとは、
考えなかったそうだ。
わけのわからない祝詞を唱えさせられつつお払いを受け、
それが終わってようやく、Uは代金のことに気づいた。
小遣いを取り上げられていたこともあり、財布の中にはわずかな金と定期ぐらいしか
入っていない。
親切にも神主さんも巫女さんも「お金はもともと大して取っていないから」と、
受け取ろうとしなかった。
その後、少しだけ話をした。Aさん曰く、
「神主さんはちゃんとした神職の人だけれど、実際に『見える』わけではありません。
私が見たところ、本当に『その手のこと』で困っている人は珍しい。
ですが、誰でもお払いを受けると、大抵はスッキリして帰ってくれます。
『お払い』を受けたと言う気分の部分が大きいんですよ。
もちろん、神様の助けもあるのですが、気持ちの問題だと言い切ってもいいぐらいです。
それは『本当にその手のことで困っている人』でも同じです。
要は、気持ちの部分が大きいということをちゃんとわかっていればいいんです。
生きている人間に、死んでいる人間がかなうはずがありませんから、
無視するぐらいでちょうどよろしい。
下手に怖がったり、好奇心を抱いたりせず、徹底的に無視しなさい」
最後に、「困ったことがあったら、また来なさい」と、付け加えた。
414 :13/14 :2008/10/30(木) 11:03:51 ID:tl4Q/2/Z0
Uは神社を出て、家に帰った。
母親がいたが、彼を見るなりヒステリックに「こっちへ来なさい!」と叫んだので、
小言を言われるのだと思ったUは、それを無視して部屋に行った。
家の前から『女』は消えていたものの、念のために、部屋の隅にもらった
お札を貼った。
415 :14/14 :2008/10/30(木) 11:04:20 ID:tl4Q/2/Z0
結論を言うと、Uはその後、学校では疎外感を味わい続け、受験にも失敗した。
両親はエリートコースから外れかけている息子にいたく失望したらしく、
最初のうちは怒鳴ったり説教したりしていたが、次第に諦め、無関心に
なって行ったらしい。
この出来事が切欠で、Uは『見える人』になってしまったようだった。
しかし、未だに「怖がらずにいること」ができないと言う。
と言うより、未だに自分が正気なのかどうなのか、半ば疑っているようだった。
この話をしている時、Uは酒に酔っていたため、暗い話をしているという感じではなく、
むしろゲラゲラと自分を自嘲しているような感じだった。
結局、『女』がなんであったのかは、よくわからないらしい。
通りすがりの強い霊かなにかであったらしいが、川辺になぜたたずんでいたのかは、
不明だそうだ。
余談だが、世の中には、「気持ちの持ちよう」ではどうにもならないモノと言うのも
存在するらしい。
幸いにも、Uはまだ実際に遭遇したことはないが、もし遭遇したら、
本格的な修行かなにかをする羽目になるのかもしれない、とこぼしていた。
それはそれで、Uのためにもいいのでは……と思ったが、
Uは「とんでもないっ!」と顔色を変えてドラクエのような台詞を吐いた。
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車 後日談
- 2008-12-13 (土)
- U
349 :332 :2008/10/29(水) 06:47:26 ID:CARaJPwC0
>>347
車は結局廃車になったのですが、そのことについて話すとまたちょっと長くなります。
なので、また夜にでも文章をまとめさせてもらおうかな?と思っています。
書き忘れていたのですが、交通安全のお守りを、>>332の直後に紛失したそうです。
車内にあったはずなのに、忽然と消えていて見つからなかったとか。
(まぁSは相当うっかりな奴なので、見落としている可能性もありますが)
それから、Uは車内で眠っていたのではなく、気絶していたようです。
恐怖と気分の悪さで意識を失ったと言っていました。
371 :1/3 :2008/10/29(水) 20:42:53 ID:CARaJPwC0
>>332-336の後日談みたいなものになりますので、そちらを先に読まれると、
わかりやすいと思います。
————–
Sは車を手放すことにしたらしい。
しかし、手放すにしても、廃車にするか売るかで、しばらく迷っていた
ようだった。
Sはバイトをしていたものの、他に使うこともあるし、元来貯金などあまりしないので、
廃車にしてしまうと、新しい車が買えない。
かと言って売っても、金は入ってくるし、それで次の車も買えるかもしれないが、
いわくつきの事故車両で誰かが事故を起こすかも、と思うとスッキリしない。
で、まあ一ヶ月ほど悩んでいたらしいのだが、その間に微妙な怪奇現象が起こった。
Sの親が「あんたの車の上に子供が乗って遊んでたよ」と言って来たとか、
夜、家の外の車のとめてある辺りから子供の声が聞こえた、とか。
どちらもリアル子供である可能性がないではないが、車の上で遊ぶ子供など
見たこともないし、夜出歩く子供もあまり見かけない。
S自身は金もないし車を売る方向で考えたかったのだが、
怪奇現象(?)のこともあり、長々と悩んでいた。
もちろん、怖いもの知らずのSと言えども、その間は車に乗らなかった。
ある日、ふと、「お払いすれば、車売らなくてもすむんじゃね?」と、
Sは思いついたらしい。
僕には信じられないことだが、彼に取って問題なのは、
「自分も事故を起こすかも」と言う一点のみであり、
その車が過去に死亡事故を起こしていると言う事実は、本気で気にしていなかったらしい。
で、僕に電話をして、Uにちょっと頼んでみてくれないか? と来たわけだ。
372 :2/3 :2008/10/29(水) 20:43:36 ID:CARaJPwC0
頼まれた僕としてはいい迷惑で、「アホか、さっさと車を処分しろ!」と
突っぱねたかったのだが、Sが相当しつこかったので、思わず
「まあ頼むぐらいなら……」と、引き受けてしまった。
Uにそのことを話すと、思いっきり困惑したようだった。
曰く、
「俺は『見える』だけで、払うとかはやったことがないからなあ。
自分についてきたヤツとかは、弱いのだったら追い払うぐらいはできるけど、
人に憑いたヤツで、しかもあのぐらい強いのになると、正直怯えるぐらいしか
できないし、自己防衛で精一杯」
とのこと。
しかし、一応、「神社とか寺とかに持っていけば、一万円ぐらいでお払いしてくれるよ」
とアドバイスをくれた。
安っ! と思って「一万!?」と尋ねると、Uははっきりしない口調で、
「普通はそのぐらいかな。それで払えないとなると、もっとかかると思うけど……」
と言った。
個人的には、Uのお払いを見てみたくもあったのだが、できないということになれば
仕方がない。そのままSに伝えた。
Sは近所の神社のHPでお払いの値段を調べ、思いのほか格安だったので、
これならとお払いを決意した。
(一万どころか、三千円ぐらいでお払いできるらしい。要予約だが)
Sは休日を待って、いざお払いに行かんと車を出発させた。
現物を持っていかなければお払いのしようがないので、もちろん自分で運転した。
373 :3/3 :2008/10/29(水) 20:44:03 ID:CARaJPwC0
一ヶ月ぶりの運転だからか、運転の要領がよくわからなかったらしい。
なんというか、ハンドルが取られる感じがした、と言っていた。
と言っても近所の神社なので、車で五分も走ればすぐにつく。
細い道に入り、もうすぐ神社の鳥居が見える、と言うところで、Sは突然、
前方に子供がいるのに気づいたと言う。
道路の真ん中に忽然とあらわれたように感じたそうだ。
その辺りは道が狭くて入り組んでいるのにもかかわらず、
通学路かつ地元の人間なら誰もが知っている抜け道となっているため、
時々事故が起こる。
Sはマズイ! とハンドルを切った。
後は、気づいたら電柱に衝突してしまっていたそうだ。
車のドアが歪んで開かず、まさか車が爆発して……と青くなったが、
幸いむち打ち症になるだけですんだ。
飛び出してきた子供は、どこにも見当たらなかった。
そう言うわけで、車はめでたく廃車となった。
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