オオ○キ教授 Archive
鬼になる理由<美那>
- 2009-06-15 (月)
- オオ○キ教授
796 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/12(金) 00:12:30 ID:vNpQddCw0
主人公が話の区切りで変わります。最初は美耶で。
鬼になる理由<美耶> 1/4
ハルさんから入ったお兄ちゃんヘの電話は、とても奇妙な内容だった。
ハルさんの会社の先輩に当たる人が、その日の明け方に家出をした、というもの。
少し前から言動がおかしかったこともあって、会社では『精神的な病理による一時的な失踪』と受け止められてしまったみたい。
でも、ハルさんは、もっと深刻に考えてる。
「オレ、急には会社を休めないから、その間だけでも笹川さん探しを頼めませんか?」
ハルさんの依頼に、お兄ちゃんは二つ返事で引き受けた。
で、今、私を迎えに来てる(汗)。
「なんで私も一緒なの?」
お兄ちゃんの車の助手席で、不満たらたらの私。
だって、馬鹿兄貴ときたら、
「鬼が出るらしいから、お前が必要」
とかって理不尽なこと言うんだもん。
鬼…ねえ…。そんなもの、現実にはいないと思うんだけどな。
797 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/12(金) 00:12:55 ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 2/4
お兄ちゃんは、以前から、たびたび、その失踪した笹川さんのことを聞いていたよう。
「I村ってわかる?そこが元凶みたいだから、いま向かってる」
って県境の村名を上げる。
場所はなんとなくわかるし、すごい田舎なのもわかる。行ったことないけど。
「私たちが行って探すっていっても、笹川さんの顔はわかるの?」
と聞くと、
「パジャマで飛び出したから、それを目印にする」
だって…。
アバウトな兄貴だ(溜息)。
それにしても、変な話。
笹川さんは、夜中に突然、
「子どもがいない。鬼が連れて行った」
って騒いで飛び出したらしいけど、赤ちゃんはちゃんとその部屋で寝てた。
以前、ハルさんがうちに遊びに来たときに、ハルさんの後方に禍々しい角の生えた『黒い影』を見たことがある。
追い払えそうだったから玄関の外に締め出したけど、あの日、ハルさんは笹川さんとI村に仕事しに行ったんだよね。
笹川さんは、あの『影』に憑かれちゃったのかな?
追い払えずに今まで来ちゃったのかな?
798 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/12(金) 00:13:45 ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 3/4
「幽霊なら、角なんか生えないよね?」
道すがら、助手席でただ座っているのもなんなので、いろいろ考えてみた。
教授にくっついて旅をしていたとき、私はいろんな幻覚を見た。その中には、ただの妄想とは思えないほど現実と合致しているモノもあった。
でも、鬼は見ていない。鬼っていうか…人間から大きく外れた生き物を見たことは…ない…。
『黒い影』には、捻くれた大きな角が2本、はっきりと頭にあった。アレを見たとき、私は、人間の怨霊ではなくて動物の霊かと思ったんだ。牛みたいな不恰好なシルエットだったし。
「牛鬼(ぎゅうき)って妖怪の伝承は実際にあるぞ」
お兄ちゃんは、煙草を口の端に乗せながら答えた。
「鬼の頭に牛の体を持っていたり、頭と体の形が逆だったり、他の動物が混ざったりと、よくわからない動物だけどな。キメラであることは間違いないらしい」
「キメラ?」
聞き覚えのない言葉に、私は首を捻る。
「キメラってのは、2種類以上の生物が合体している生き物のことだ。元はギリシャ神話だったかな。ライオンとヤギと蛇の一部分ずつを持つキマイラってのが出てくるんだ」
なんとなく記憶にある。ライオンの頭に尻尾が蛇のイラスト。
「じゃあ、鬼っていうのは、実際にいるの?」
と聞くと、お兄ちゃんは苦笑する。
「んなの、知らねーよ。全国に似たような妖怪話が残っていても、写真でも残ってなけりゃ、それが事実とは言えないだろ」
うん。『伝承』だけじゃ証拠にはならない、よね。
799 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/12(金) 00:14:30 ID:vNpQddCw0
鬼になる理由<美耶> 4/4
「牛鬼ってのは、未知の海洋生物のことじゃないかな」
他に話題もなかったので、お兄ちゃんは続けた。
「『牛』なんて名前がついているわりには、伝承が残っているのは水辺ばかりなんだ。海や湖に生息していた大型魚類が、ごく稀に姿を現した現象がそれなんじゃないかと思う」
「その魚に角があったの?」
私が聞くと、お兄ちゃんは頭を掻きながら、
「あ、そっか。魚に角はおかしいよな」
と笑う。
でもすぐに異説を持ち出した。
「実在の『魚類』に角はなくても、後々、その魚を食べた人間が、寄生虫か何かから重病を発症すれば、それは『疫神』となるだろ。その後の口伝で『病気を撒き散らす鬼』と同一視されても無理はないと思わないか?」
…ありえる話には聞こえる。
「それじゃあ、『笹川さん』に幻覚を見せたのは、やっぱり、鬼じゃなくて動物霊か何かの仕業なのかなあ」
『鬼』なんてものがいないとなれば、ハルさんにくっついてきた『黒い影』は、そうとしか説明できない。
お兄ちゃんは、
「いーや」
と、ほんっっっとに楽しそうに、言った。
「俺は『妖怪』ってのはいると思うね。死んだ人間の思念や神仏なんかじゃなくて、『異形の生き物』が存在することを信じてる」
…一応、反論しといた。
「私が持衰(じさい=古代の神降ろしの能力を持った巫女)の生まれ変わりだったとしても、そんなモノを感知する力なんてないんだからね(汗)」
お兄ちゃんは、
「期待してるよ」
と無責任に言った。
…馬鹿。
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鬼になる理由<晴彦>
- 2008-12-29 (月)
- オオ○キ教授
948 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/28(日) 00:23:17 ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 1/4
…なんとなく腑に落ちない。
崇志兄(たかしにい)との電話の繋がり方が、妙に気味悪かった。
最初の、笹川さんの車が見つかった連絡までは、まともだったんだ。
そのあと、美耶ちゃんに代わるものだと思ってたのに、威嚇の声みたいな重低音が聞こえて、切れた。
何度かこちらからかけたけど、出るのはいつも崇志兄だけで(崇志兄の携帯にかけてるんだから当たり前か)、美耶ちゃんに取り次いでもらおうとすると、切れる。
崇志兄の話によると、I村の人に親切にしてもらってるらしいけど…。
まあいいか。もうすぐ合流できそうだし。
わかりにくいI村への入り口も、数度の訪問で、間違えることなく行けるようになったしなあ。
949 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/28(日) 00:23:39 ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 2/4
夏色に伸びた穂が広がる水田の向こうに、赤いサッシの家が点々と見えてきた。
初めて来たときは、まだ雪が残っていたんだ。この時期の景観も好きだな、オレ。
父さんに聞いたら、先住と移住の民が、家屋の色で差別化を図るのはよくあることらしい。その多くが『部落差別』の弊害を受けてしまうのは、仕方がないってことだった。
…正直、部落って位置づけは、オレにはピンと来ない。
崇志兄に言わせると、オレは『お坊ちゃん』らしいから…orz
951 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/28(日) 00:23:59 ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 3/4
村に車を乗り入れるときは、車幅ぎりぎりの農道に入らなければならない。
オレが運転しているときは、いつも笹川さんが、
「落ちる!」
って叫んでた。
農道の先に、その笹川さんの車と崇志兄の車が停まってる。
怖がりの美耶ちゃんが平静に乗っていられたのかどうか、あとで聞いてみよう。
―――――――――――……。
でも、オレは無意識に農道の入り口をスルーしてしまった。
なぜだろう。ときどきこういうことが起きる。
そして、この行動はあとになってみると意味がわかってくることが多い。
…しょうがねえなあ。
たしか、迂回した先にも村の方面に入り込む林道があったはず。そっちを目指すか。
952 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/28(日) 00:24:25 ID:C3q3ljrQ0
鬼になる理由<晴彦> 4/4
5分ほど走って、I村を完全に行き過ぎたところで、村の裏手の山に入る道を見つけた。
車は…入らないな。この程度の登山なら革靴でもいけるだろ。
電波が届きそうだったから崇志兄に電話した。その場では通じなかった。
10分ほど山中に入り込んだところで、崇志兄の方から電話があった。
ノイズだらけで何を言ってるのかわからない。
諦めて電話を切った。…なんか、美耶ちゃんの声が聞きたいなあ…。
時計を見ると、まだ13時半。
天気もいいのに、ぬかるんだ山道には陽の光が届いていなかった。
前方に人影が見えた気がして、正直、ビビッた。
鬼…って、本当にいるんだろうか。もし出たら…。
どうしようかな、オレ。
とりあえず――――――――……。
逃げよう。
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鬼になる理由<美耶2>
- 2008-12-29 (月)
- オオ○キ教授
884 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/20(土) 00:40:17 ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 1/4
「少し待ってな」
とお兄ちゃんが言うので、私は立ち止まって、お兄ちゃんが笹川さんの車を覗き込むのを離れて見てた。
ハルさんの話によると、笹川さんは、多少熱血的なところはあるものの、突然、奇行に走ったりするタイプではなかったよう。
それでも、お兄ちゃんは、
「錯乱状態が続いてるかもしれないから」
と、私には笹川さんに不用意に近づかないように忠告した。
車から離れたお兄ちゃんは、首を横に振ってる。いなかったんだ…。
「とりあえず、晴彦に連絡しておいて」
と言われたので、携帯を取り出した。
…けど、圏外…。
念のため、お兄ちゃんの携帯も見てみると、そっちは通じそう。
番号を暗記している私がダイヤルして、お兄ちゃんに渡した。ハルさんはすぐに出たようで、会話してる。
伝えることを伝えたあと、お兄ちゃんは私に携帯を渡してくれた。
…ちょっと決まりが悪い(汗)。けど、声を聞けるのは嬉しい。
受話部分を耳に当てると、でも、通話は切れてた。画面を見ると圏外。
「お前、電波に嫌われてんなあ」
と笑う兄貴。
うるさいっ。
885 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/20(土) 00:40:51 ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 2/4
ハルさん伝いに聞いた、笹川さんが『鬼を見た場所』は、I村の村落を過ぎた山の入り口だったはず。
100m置きぐらいに点在してる家屋の窓枠を見ながら、私たちはI村の中間まで来た。
人の姿はないけど、気配はする。家の陰やカーテンの隙間からの視線。
「警戒心強いなあ」
お兄ちゃんは半ば呆れている。
「話しかけないでね」
私は牽制した。
そのほうがいい気がする。
7月だというのに、ひどく空気が冷たかった。
汗かきのお兄ちゃんも、
「山だから涼しいのかな」
と首をひねるほど暑がらない。
快晴の空に昇る太陽は、若干、天頂から西に動いてる。
「おなか空いたね」
と、場を和ますために言ってみた。空腹感はまったくない。
「もうそんな時間か?家出たの、11時近かったもんな」
腕時計を持たないお兄ちゃんは、携帯を出した。
「晴彦から着信入ってるわ」
画面には、10分ほど前にかかってきた見覚えのある電話番号が表示されてる。
かけ直したけど、ノイズがひどくて、通じてるのかどうかもわからなかった。
886 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/20(土) 00:41:23 ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 3/4
ハルさんに連絡がつかない。
それがものすごく不安だった。
「笹川さんの車を見つけたときに、お兄ちゃん、ハルさんと話したでしょ?なんて言ったの?」
確認すると、お兄ちゃんは、
「晴彦も午後から休みを取って合流するって言ってた。もう向かってるよ」
と、意味ありげにニヤついて答える。
私は、
「ハルさんは来ないでほしいな…」
と言った。
お兄ちゃんは、
「…なんで?」
と、浮かれた声のトーンを落とした。
「わからない、けど、なんとなく…」
返事に困っていると、お兄ちゃんが言った。
「いま、晴彦にかけ直したとき、お前、雑音がひどくて何も聞こえないって言ったろ。俺には聞こえたよ」
「『ハヨキレヨ』って言葉が、何度もね」
青くなった私を見て、
「帰るか?」
と、お兄ちゃんは聞いた。
私は拒否した。
「私たちが笹川さんを見つけてあげなかったら、ハルさんが探すことになるんでしょ?そのほうが嫌だもん」
お兄ちゃんは声を上げて笑いながら、
「おし。やっぱりお前は俺の妹だ」
と自慢(?)した。
887 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/20(土) 00:42:12 ID:YP/vX9cU0
鬼になる理由<美耶2> 4/4
覚悟を決めれば、なんのことはない道程だった。
鬼が出るのでもなく、魔都に引きずり込まれるわけでもない。
「いざとなれば、小角を呼ぶから」
と軽口を叩く私に、
「はいはい」
とあしらう兄貴。
「小角といえば修験道の開祖なんだけどさ」
道すがら、お兄ちゃんが雑学を披露してくれた。
「修験道っていうのは、日本の神道や中国の陰陽道が交じり合った、難解な宗教だったわけ。で、後に密教の影響を受けて真言を取り入れたりしてくるんだ」
「真言…って、お兄ちゃんの宗派?」
あんまり興味なかったけど、お兄ちゃんの唱えるお経が珍しかったので、尋ねてみたことがあったんだ。
「そ。だから、俺も『行者様』とは無縁じゃない」
明らかに無理なこじ付けをしてるお兄ちゃん。
「はいはい」
とあしらっておいた。
そして、私たちは、『鬼が出る』だろう、問題の家に着いた。
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鬼になる理由<崇志>
- 2008-12-29 (月)
- オオ○キ教授
815 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/13(土) 22:58:33 ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 1/4
『鬼』なんてもんに託(かこつ)けて美耶を誘ったのは、最近、実家にも帰ってないし、会話がなかったと思ったからだ。
もちろん、そんな本心をクソ生意気な妹に伝える気はない。
晴彦と付き合いだしてから、美耶にはいい変化が起きている。
人間不信のケが強かった妹は、元々は引きこもりに近い生活をしてたんだ。
心配する両親と衝突することも多かったのを見かねて、俺は教授に美耶を連れ出してくれるように頼んだ。
教授は、
「ショック療法になるかもしれないよ」
と笑いながら協力してくれた。
今は晴彦がその役目を負っている。…ボランティアではなしに。
助手席の美耶に、サービス精神で晴彦の話題を振ってやった。
「あいつの運転に少しは慣れたか?」
美耶は、盛大に首を横に振る。
「絶対に慣れないっ!…っていうか、すでに恐怖症」
「…動体視力が並外れてるから、事故はしないんだけどね」
一応、フォローをしておいてやろう。
「ハルさんって、他は穏やかな性格してるのに、なんで運転だけ暴走なの?」
という美耶の質問に、俺は、正直に答えた。
「あいつが穏やかになったのは、歳を食ったからだよ。会ったばかりの頃はえっらく我儘で、突然、大阪からこっちまで夜行で来て、『いま駅にいるから迎えに来て』なんて電話をしやがったことも度々あったんだぜ」
「ハルさんって、お兄ちゃんと会った頃は大阪にいたの?」
美耶が不思議そうに聞く。
ああ、そうか。美耶は、晴彦が転勤した後からしか知らないもんな。
「晴彦の出身は大阪だよ。離婚したあと、教授はこっちに、晴彦は仕事で岡山に行った。だから、あいつ、本当は大阪弁なんだ」
ガラ悪いぞ、と忠告すると、美耶は、
「聞いてみたい~」
と喜んだ。
いい変化だ(笑)。
816 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/13(土) 22:59:04 ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 2/4
俺が会った頃、晴彦は、お世辞にも『好かれる性格』はしていなかった。
自暴自棄で甘ったれで、口癖は、
「オレがいなかったら、よかったのに」
だった。
あいつから聞いた話。
晴彦の子ども時分の徒名は『死神』だ。
教授の受け継いでしまった甕の呪いは、晴彦に少なからず影響を与えていた。あいつの友人のほとんどは、不慮の怪我や死によって晴彦から離れている。
教授はその事実を愁いていた。息子と縁を切れば解決するのではないかと思って、戸籍を切り離した。
その後、晴彦に呪いの影響は見られなくなった。
でも、晴彦は、父親と離れなくてはならなくなったことを、
「オレがいなかったら、よかったのに」
と言い続けた。
美耶に、晴彦が受け止められるかな。
…美耶にしかできないか。
817 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/13(土) 22:59:34 ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 3/4
今朝一番で入った晴彦からの電話は、そう切羽詰った様子でもなかった。
「今晩、そっちに連れて行く約束をしてた笹川さんが失踪しました」
と、出勤前らしい短い伝言を残しただけだ。
しばらくして、再度かかってきた電話。
「飲み屋に残してきた笹川さんの車がなくなってます。失踪後に取りにいったとしか思えないけど、笹川さんのマンションから飲み屋まで、8キロぐらいの距離があるんですよね」
その行動には、俺も少なからず疑問に思う。
「パジャマのまま、明け方の道路を8キロも歩いたっていうのか?錯乱していたにしても、途中で気づくだろうに」
晴彦が、
「車ごと神隠し…なんて、ありえないですよね」
と、苦笑交じりに言った。
俺は、
「お前、仕事休めないだろ。探しに行ってやろうか?」
と志願した。
細い市道に入ってしばらく走ると、山間のところどころに開けた田畑が見えてきた。
I村に近づいてみて初めて気づいたが、この辺りの山は『磯神(いそがみ)』じゃないのか。
地元出身じゃない晴彦が気づかないのは無理もないが、磯神は、国内有数のミステリーゾーン、つまり心霊現象の多発するスポットだ。
美耶も身を硬くしている。
818 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/13(土) 22:59:58 ID:sgkzXjaf0
鬼になる理由<崇志> 4/4
「何か見えるのか?」
落ち着きなく周囲を見回す美耶に聞いてみた。
「ううん。見えはしないけど…」
言葉を濁した美耶は、直後に耳を塞いだ。
「死にかけた人の、『助けて』って声がたくさん聞こえる」
俺はラジオのボリュームを大きくした。
短波に乗って流れてきた曲は、季節外れのレクイエムだった。
磯神は、峠越えのドライバーの事故死が並外れた場所でもある。
市道から、さらに細い脇道に車を入れた。
右手に広がる山裾に、赤い窓枠の家が点在していた。
そのI村の入り口に、晴彦から聞いていた笹川氏の車が停まっていた。
やばい、かもな。臆してるのが自分でもわかる。
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祭り
- 2008-12-29 (月)
- オオ○キ教授
759 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/08(月) 18:17:21 ID:UJPr5Iv20
短い話をつなぎで投下させていただきます。
…ミイラでも見てみたいかも。
祭り 1/4
大月に乗せてもらい、自分のマンションに辿り着いた俺は、礼もそこそこに布団に潜り込んだ。
かみさんが顔を覗き込んで、心配そうに聞いてくる。
「大丈夫?最近、なんかおかしいよ」
心の奥底に、いつも得体の知れない不安を抱えているから、鬱になったり、逆に払拭しようとカラ元気を出したり。俺自身にも自分の変調は自覚できていた。
「子どもが生まれてナーバスになってるのかもな」
と答えると、かみさんは、
「私がマタニティブルーになるならわかるけど、パパもなの?」
と笑った。
…ほんとだよ。情けねえ。
腹筋が発達して泣き声が逞しくなった娘を脇に抱え、俺は眠りについた。
小さくて不確かな命がそばにいるから、熟睡はできない。でも、それを嘆く気はない。
こいつはどんな大人になって、俺はどんな親になっていくんだろう。
いろんな感情で高ぶったままの神経が、それでもゆっくりと麻痺していく。
760 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/08(月) 18:17:48 ID:UJPr5Iv20
祭り 2/4
妙な声で目が覚めた。
時計を見ると、朝の4時になるところだ。
寝ぼけたのかと思って布団に潜りなおす。夏とはいえ、明け方は冷える。
そのとき、また声がした。
「—–…ろー…」
……外…だな…。
表の通りを、太鼓の囃子と子どもの声が歩いている。
うちは4階だし、表通りは駐車場を挟んでいるから、それほどの騒音には感じない。それでも、夜中に祭り行列とは非常識が過ぎるような気がした。
かみさんと子どもを見ると、よく寝ている。
静まり返った空気に混ざる声が、だんだんと聞き取れるようになった。
「…きろー」「…起きろー」「はよ起きろー」
悪戯か?
俺は起き上がって窓に近寄った。
子どもの声には聞こえるが、厄介なタイプの集団かもしれない。こちらの動向に気づかれないように、そっとカーテンを開けて、外を確認した。
761 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/08(月) 18:18:16 ID:UJPr5Iv20
祭り 3/4
4階のベランダの縁で、下から覗き込むような2つの顔が覗いていた。
普通の人間の倍ほどもある大きさだった。
振り乱した黒髪の乗った頭から、硬い角が生えている。
ぎょろりとした目が、俺をまっすぐに見ていた。
牙のある口が動き、
「はよ起きろー」
と、低い声を発した。
鬼が来た!!!!!!!!
762 :オオ○キ教授 ◆.QTJk/NbmY :2008/12/08(月) 18:18:49 ID:UJPr5Iv20
祭り 4/4
俺はカーテンを閉めることも忘れて後方へ這いずった。
何かに当たったので見ると、かみさんの頭だった。
…子どもは?!
見回しても、薄い布団にそれらしい盛り上がりはない。
かみさんを揺り起こし、
「ユイは?!」
と怒鳴りつけると、かみさんも飛び起きて探し始めた。
俺は冷静さを欠いていて、目の前の部屋の様子すらうまく認識できなかった。
「鬼が連れて行ったのか?」
とかみさんに問うと、
「何言ってるの…?」
と泣きそうな顔で首を振る。
「返してもらってくる」
俺は寝巻きのまま玄関を飛び出した。
どこへ行けばいいのか、見当はついてるんだ。
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