忍 Archive
呼び声
- 2008-10-14 (火)
- 忍
892 : ◆DJINKbmZw2 :2008/10/13(月) 09:55:03 ID:adn+FyG3O
養護施設では季節毎に色んなイベントがある。ゴールデンウイークの遠足もその一つだ。
普段より一時間早く起きて寮母から渡されるリュックと水筒を受け取り、食堂に置いてある大きなヤカンからお茶を水筒に入れる。
ヤカンの数からして、水筒には半分くらいの量にしなければいけないが、施設の子供達は早い者勝ちの理論で行動する。
何人かの水筒は水道水で満たされただろう。当時、まだ血尿が出ていた病弱少年だった忍は当然、遠足に行く事をやんわりと寮母から止められていたが、どう言いくるめたのか参加していた。
早朝から施設をゾロゾロと寮母と室長の後をついて歩く何十人もの子供は傍目から見ると異様な光景だっただろう。幼児組は施設で留守番だが、忍と言う立派なお目付け役が居る僕は無言で歩き続けるだけだった。
歩きながら、水筒に口をつけてお茶を飲みながら、山道に入って行った。室長の様子からすると毎年、ここに来ている様子だった。
もうすぐ、山頂だと聞かされた頃に僕の後ろを歩いていた忍が何か呟いていることに気付いた。耳に意識を集中して何とか言葉を聞き取った。
「おいで…おいで…おいで」
病弱を装っていた忍は最後尾を歩いている。そばに、呼び掛けて来るような生き物もいるはずがない。
893 : ◆DJINKbmZw2 :2008/10/13(月) 09:56:15 ID:adn+FyG3O
何を呼んでいるのかは聞く気にもならなかった。ただ、背後で繰り返される言葉だけが怖かったので、自然と忍から離れるように早足になった。
そうやってたどり着いた山頂は広場のようになっていて粗末な木のベンチがいくつかあるだけだった。ベンチに座れるのは暗黙の了解で園長、寮母、室長と順番が決まっている。
ベンチに座る権利の無い人間は地面に座り込み、弁当を広げる。煮物の汁が染み込んだ、お握りが三つと漬物が数切れ。そんな弁当でも天気の良い野外では美味しく感じられた。
弁当を食べ終わり、自由時間が与えられたが当然のように忍と僕は行動をともにしなければならない。
「ちょっと着いてこい。トイレ行ってきます」
一言目は僕に、二言目は所在なさ気にしている寮母へ投げかけた言葉だ。当然のように忍に着いていくように寮母に言われ、忍の後を歩く。
登って来た山道を少し下ってから薮の中に入って行く。
「小便だけなら、この辺ですれば?」
薮をかきわけて前を進む忍に声をかけたが返事は無く、ただ薮の中を滑るように下って行く。
「おいで…おいで…おいで…」
薮の先に舗装されていない、かろうじて車道だと分かる程度の場所まで辿り着いた時に、ようやく忍が足を止めた。何かを呼ぶ声に数歩、距離をあけて横に回り込む。
894 : ◆DJINKbmZw2 :2008/10/13(月) 09:57:23 ID:adn+FyG3O
何もない空間に両手を広げて何かを抱え込むようにしている。呼び掛ける言葉はずっと続いていたが、少しずつ広げた手が狭まっていくのをぼんやりと見ていた。
「おいで…おいで…おいで…おいで…」
繰り返される言葉を聞いているうちに吐き気に襲われた。吐き気がする程の不快感の中、忍の手を見た。抱きしめて撫でるような手の動きをしながら、徐々に空間は狭まっていく。
「いい子」
唐突に言葉が終わる。握り潰すように忍の両手が合わさり、不快感が消えた。忍は薄笑いを浮かべながら指を組んでいる。
「今のって何してたんだ?」
「さ迷ってるのが居たから保護したんだよ」
心の底から嬉しそうな返事が返された。追求しようと思った矢先、背後から僕と忍を捜す寮母の声が聞こえてきた。
「収穫したし戻ろう」
その言葉で寮母達の元へ急ぐ。固く閉じられた両手は開かれて何事も無かったように薮をかきわけていた。
僕達が広場に戻ると既に一時間近くたっている事を告げられ、僕だけが怒られた。信用の無さは健在だった。慌ただしくリュックと水筒を持ち、全員で山道を下る。
早く施設に帰りたかった。あの時、感じた不快感から離れたかった。真後ろを歩いている忍が、また何かに呼び掛けるのでは無いかと気が気じゃなく、自然と急ぎ足になっては寮母に忍の面倒を見るように言われた。
背後から嘲笑交じりの小声。
「もう居ないから大丈夫だよ、お前が怖がる必要はない」
ようやく養護施設に戻り、一息ついた夜から忍が熱を出して丸二日、寝込んだ。食事も満足に取れない状態なのに忍は笑っていた。
「いい拾い物だったから熱ぐらいなら喜んで引き受けるよ」
895 : ◆DJINKbmZw2 :2008/10/13(月) 09:58:18 ID:adn+FyG3O
終わりです。
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注射器
- 2008-09-25 (木)
- 忍
831 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 17:59:20 ID:twFb08ZTO
>>830
規制中に書きあげたのは昨日のと今から投下する二つだけです。
832 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:00:25 ID:twFb08ZTO
養護施設始まって以来のトンコ数を誇る僕だけに行われる行為がある。登校前と下校後の持ち物検査だ。
通学鞄は筆箱の中まで見られ、制服のポケットまで厳しくチェックされる。毎日、続くそれを忍はニヤニヤしながら眺めていた。
図書室での会話から数日後の昼休み、忍に体育館の裏に連れて行かれた。
体育館の裏の道路向かいには件のシャブ中団地があり、学校と外界を切り離している冊はたやすく乗り越える事が出来る。
「僕は出ていかないからな」
トンコを示唆していると思った僕は強い口調で忍に断言したが、忍は片手をヒラヒラと振って笑っていた。
「お前に面白い物を見せてやろうと思っただけだよ」
そう言いながら忍は学ランを脱いで冊に引っ掛けた。そして長袖のシャツの左側をまくりあげて、僕の向かって突き出した。
手首と肘裏の中間くらいにピンポン球は半分にしたような、こぶがあった。
「何だ、それ?保健室で診て貰ったら?」
僕は至極、真っ当な感想を言ったはずなのに忍は弾けたように笑いだした。
「中身は空気だよ。痛くも何ともないから押してみろよ」
笑いながら忍が言うのにつられて恐る恐る、こぶを指で押してみた。
833 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:02:31 ID:twFb08ZTO
ブシュッという嫌な感触と共に、こぶが皮膚の下を移動する。慌てて指を離して忍の顔を見た。どこからか見られているような突き刺さるような視線を感じる。
忍はズボンのポケットから注射器を取り出して僕に見せる。
「これで皮膚と肉の間に空気を入れただけだよ」
笑いながら何でもない事のように注射器の針を腕に刺し、ピストンを押す。薄く皮膚が盛り上がり二つ目の、こぶが出来上がる。
「何、してんだよ。そのポンプもシャブ中団地からパクって来たのか?そんな馬鹿な事して楽しいのか?まさか…」
注射器だけじゃなく覚醒剤まで盗んだのか聞こうとした僕の言葉を忍が遮った。
「俺は何でも試してみなきゃ気がすまないたちなんだよ。最初は血管に空気、入れてみたかったんだけど押しても反発が強くて無理だった」
もう一度、忍が注射器を腕に刺して今度はピストンを引いて空気を抜く。吸い込まれるように、こぶが消えて何もなかったように元通りになった。
「ガス壊疽ってのも経験したくてさ、ここの土から泥水作って注射してみたりしたけど、意外と綺麗な土みたいでさ吸収されただけだった」
少し窪んだ地面を靴先で蹴りながら忍が真剣な顔をして見せた。
834 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:03:43 ID:twFb08ZTO
「あいつら、ネタは大事に隠してるけど道具の扱いは杜撰だからな。未使用のポンプくらい幾つでもパクれるよ」
「忍は他人だけじゃなくて自分の事もどうでもいいんだな。だから、平気で死ぬかも知れないような事が出来るんだ!」
その時、僕の中にあったのは忍にたいする恐れではなく、怒りだった。
「言っただろ?体なんて魂に比べたら大事じゃないって、それに何事も練習して経験しないと分からないからな」
笑いながら話す忍の言葉に何か引っ掛かりを感じた。
「誰かにやるつもりなのか?」
「お前になら空気ぐらいなら試してやってもいいけど?皮膚の下を動く空気の感触、試してみるか?」
「…嫌だ。そんな物、捨てろよ!気持ち悪い!」
忍にも忍が手にしている注射器にも激しい嫌悪感を感じた。そして、忍の手から注射器を奪い取るとそのまま近くの焼却炉に投げこんだ。
ふと、道路の向かい側に目を向ける。
一瞬だったがシャブ中団地の部屋の全てのベランダに人影が見えた気がした。
忍は一年生の時にここの冊を乗り越えシャブ中団地に嫌がらせをしに行っていた。
そして注射器の扱いを覚え、恐らく住人達の麻薬の隠し場所も知っているんだと確信した。
強く恨まれる行為も平気で行って来たんだろう。背後にあるシャブ中団地から感じるのは紛れも無い悪意だった。
835 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/17(日) 18:04:45 ID:twFb08ZTO
去年、まだ一年生だった頃に耳にした噂話を思い出した。
『最近、あの団地に向かう救急車が多い』
『また死んだんだって』
『鉄パイプ持って自転車に乗ってる幽霊がウチの生徒を捜してるんだって』
本当の薬物中毒者の事なんて何も知らない一般家庭に育ったクラスメートの根拠のない噂話だ。
そう思って馬鹿馬鹿しいと思って聞き流していた。
その元凶を前に僕は何も出来ずにいた。
そして、荷物検査は卒業まで僕だけに行われ続けた。
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メトロ
- 2008-09-25 (木)
- 忍
782 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/16(土) 09:41:37 ID:BH5kz/vbO
ようやく、DoCoMoの規制が解除されたようなので投下します。
特定を避けるために詳しい地名などは、あえて書いていません。
783 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/16(土) 09:43:07 ID:BH5kz/vbO
養護施設で迎えた中二の春。何の因果か忍と同じクラスになった。そして忍が教室の中では明るく穏やかな人間を装っている事を知った。
施設にいる理由さえも人に話せない悲しい過去のように口をつぐんでいた。
ある日の放課後、図書室に本を返しに行く僕に忍がついてきた。図書室に入ってすぐの棚には日本地図や都道府県別の地図が載った本があり、それらは図書室でのみ閲覧可だった。
「俺と一緒に北海道に行かないか?」
唐突な忍の言葉に目をやると忍は北海道地図の本をペラペラとめくっていた。
「僕は忍とはどこにも行きたくない」
なるべく言葉の刺を隠しながら答えた。
「俺はさ、二回行ったことあるよ」
一年近く面会にも来ない家族との旅行の思い出かよ、そう思った僕は冷たく言い返す。
「ふーん、楽しかった?」
「楽しかったよ、警察に捕まるまでは」
「家出か。親の金盗んで家出したら、すぐ見つかるに決まってるだろ」
内心、馬鹿にしながら言い放つ。忍は北海道地図の本を撫で回していた。
「あいつらの金なんか一円たりとも使ってない。俺が自分で稼いだ金で行ったんだよ」
「ガキがどうやって北海道まで行く旅費稼ぐんだよ?」
784 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/16(土) 09:44:27 ID:BH5kz/vbO
忍はずっと地図を撫で回している。
「お前さ、メトロに行った事ある?」
メトロはとある路線の終点の地下街で僕も幼い頃は何度か訪れた事があった。
「ずっと小さい時に祖母ちゃんに連れて来て貰ったくらいかな。卓球場とかゲーセンとか…」
忍は地図を撫で回し続けながら、こちらを見ずに話し出した。
「メトロの両側に幾つも地上に上がる階段があるのを覚えてるか?」
階段があったのは知っている。そして階段から続く地上は風俗街やホテル街で子供が立ち入る事が許されない場所だった。
「一つの階段に一人ずつ、女が立っててさ客待ちしてるんだよな。オッサン連中がメトロを何度も往復して立ちんぼのババァを物色して交渉するんだ」
「よく知ってるな」
「お前はさ、人間の肉体と魂ならどちらが大事だと思う?」
唐突に話題を変えて質問をして来た忍に僕は迷う事なく答えた。
「肉体だろ。魂だけなんて意味ないし」
忍がこちらを見る。地図は撫で回したままで。
「魂だよ。俺はメトロの上にあるホテルで初めて、あいつらに出会った。何年か前に、ホテルの天井が崩れてカップルが死んだニュースがあっただろ?俺はその改築された部屋に入ったんだ」
785 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/16(土) 09:46:12 ID:BH5kz/vbO
その事故は僕も新聞で読んだ事がある話だった。忍は話続ける。
「体が無くなってもあいつらは生きている。存在してるんだよ。年も取らずにね。素晴らしいと思わないか?それからはそのカップルに会うためにメトロに通い続けたよ」
僕は黙って地図を撫で回す忍の話を聞き続ける。
「そんな事を繰り返しているうちに金が貯まって、もっとあいつらに会いたくなったんだ。それで北海道に行った」
「何故、北海道?忍はそこで目的は果たせたの?」
忍がさっと周囲を伺い地図を通学鞄にねじ込んだ。
「素晴らしかったよ。だから、お前も連れて行きたい。一緒に北海道に行こう?あそこなら大丈夫だから」
忍は僕をトンコの共犯にしようとしているのだと思った。しかも、北海道なんて場所に。
「北海道まで行く金はどうするつもりだよ?」
「金ならシャブ中団地で作ってある。多少、恨まれもしたけどな。だから、大丈夫だよ」
笑いながら忍が言う。
「僕は…もうトンコはやらない。これ以上、家族に心配かけたくない」
「家族なんて意味のない繋がりだろ?それにお前以上に悪質で狡猾なトンコが出来る奴は居ないしな」
忍はどうしても僕を北海道に連れて行きたいようだった。
786 : ◆DJINKbmZw2 :2008/08/16(土) 09:47:25 ID:BH5kz/vbO
「お前もあいつらと会って話せば分かるよ。魂こそが全てだって。それを玩具にする楽しさも」
忍は楽しそうに北海道での思い出話をする。滝で、道路で、場末のビジネスホテルで見た霊の話を。そして、家出少年がどうやって見知らぬ土地で居続けたのかを。
「忍は援交と家出で児相から施設に送られたの?」
一方的に忍の話を打ち切るためにくだらない質問を投げ掛けた。
「違う。補導されたのは、それが原因だけど俺は自分の手であいつらを作ろうとしたんだよ」
その言葉の意味に気付いたのは数日後、忍の奇妙な遊びに付き合わされてからだった。
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布団とフェンス
- 2008-09-25 (木)
- 忍
904 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/15(火) 12:40:16 ID:77u3EOn3O
養護施設の車が出入りしたり僕達が通学に出入りする道路に面した壁は高く分厚くて、児童相談所と変わらない堅固さだった。
反面、僕達が生活している棟の裏側の壁は低く、鬱蒼とした薮に面した場所に至ってはフェンスのみだった。ただ、そこは僕がトンコの経路に使う度に有刺鉄線が巻かれていったが。
ある晴れた日曜日、布団を干そうと二階から棟の前に幾つかある鉄棒に布団を抱えて向かった。
干した布団にもたれてぼんやりとフェンスの向こう側を僕は眺めていた。唐突に忍が歌を歌いだした。
「心無口で心静かで心にヤイバ向けて…」
「何?」
「クラスの女子が歌ってて、ここの部分だけ覚えたんだよ」
忍は園長や一部の寮母が住む外装の剥がれ落ちた廃墟のような寮を見つめていた。
「俺はお前の心にヤイバを向けるよ。理想のお前に戻るまで」
「それは精神的に僕を虐めるって意味なわけ?それに理想の僕って何なんだよ?」
忍はフェンスに視線を移す。
「俺はね、お前にここで会うのを楽しみにしてた。児相のケースワーカーから、ここには手に負えない奴が居るから巻き込まれないようにと何度も聞かされて、ここに来たんだ」
忍の視線が僕に向けられる。
「ここに来た時も園長や寮母から、お前の話を聞いたよ。おとなしくて優しそうに見えるけど、平気で他人を利用して、裏切って…会うのが楽しみだった」
905 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/15(火) 12:41:30 ID:77u3EOn3O
忍が指指しながら視線をフェンスに向ける。
「絶対に中には入って来ないあいつらにも興味はあったよ。でも、それ以上にお前に興味が湧いたんだ」
フェンスの向こう側には誰もいない。それなのに忍が示した場所が気にかかった。
「実際に会ったお前は皆が言うような奴じゃなかった。ただの優しい奴なだけで…俺がどれだけ失望したか分かるか?」
風一つ無いのに、もたれ掛かった布団が揺れているのを視界の端に感じた。まるで誰かが、両手で握って振り回しているような揺れだった。
僕は忍の言葉に何一つ反論出来なかった。児童相談所のケースワーカーが何を言ったかは知らないが園長達の言った僕の話は事実だったからだ。
不登校児で学校に行くふりをして町をうろついていれば、当然のように年かさの不良に目をつけられる。そこで理解し、許すふりをして裏切って搾取する術を学んだ。
万引きも当たり前の日常の一つだった。客だと信じて疑わない店主を万引きと言う行為で裏切るのは心地よかった。
中一の一学期、僕は十日足らずしか学校へは通ってなかった。そして児童相談所に何度も母親に連れて行かれて、しばらくの間、そこで暮らす事を決められた。
本当に家庭の事情で預けられた子や親も学校も見放して放り込まれた不良達もいた…何と無く、当時の事を思い出して胸がざわついた。
906 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/15(火) 12:43:01 ID:77u3EOn3O
気が付くと布団の揺れが背中にはっきりと感じられる程、強くなっていた。
「俺はお前が壊れるところが見たい。園長達の言うお前が見たいんだけどな」
笑いながら忍が僕を見た。
「名は体をあらわすって言うのは俺にもお前にもぴったりだよ」
布団の揺れが更に激しくなる。背中で押さえてなければ、鉄棒からずり落ちそうな程に。
忍が両腕を僕の目の前に突き出す。そのまま、ゆっくりと両手で僕の目を塞いだ。
「いつまで何も知らないふりを続けるつもり?俺は本当のお前に会いたいのに…」
力を込めて背中で押さえ付けていた布団が一気に引きずり落とされて地面に落ちた。僕の両目は塞がれたままで、周りには誰もいない。
「俺だよ」
忍の全て見透かしたような笑い声が聞こえ、視界が開けた。
鉄棒にかけられたままの忍の布団と地面に落ちて、ただ落ちただけではならないであろう不自然な丸まり方をした僕の布団。
「忍は何故、ここに送られて来たんだ?外で何をして来た?」
家庭の事情や不登校じゃない、もっと別の理由で忍はここに来たんだと確信があった。
忍からの答えは無く、僕は大小さまざまな靴跡の残った布団を拾いあげる。
笑いながら僕を見続ける忍に布団を押し付けて、僕は洗ったばかりの布団カバーを引きはがした。
908 :本当にあった怖い名無し :2008/07/15(火) 17:29:40 ID:3+J8B9auO
忍の人待ってたよ。乙!
忍がマジで怖いな。最近見たシリーズ物の中では一番怖い。
上手く言えないんだが、何かが違う恐怖というか、あまり理解したくない系の怖さだ。
過去形で語ってるってことは全部終わったことなんだよな?
910 :本当にあった怖い名無し :2008/07/15(火) 19:29:51 ID:w8GR3h0w0
忍って霊感持ってるの?
911 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/15(火) 21:35:10 ID:77u3EOn3O
>>608
養護施設での話は過去ですが、今も忍とは繋がっています。立場はちがいますけど。今は施設の話ですが結末にオカ板の力を借りるかも知れません。
>>608
忍が霊感持ちだったのは分かりません。ただ、忍が強く願った大半は叶えられてきました。
すみません、仕事の合間なので、上手い返答か分かりませんか、最後でお続きあい下さい。
912 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/15(火) 21:41:04 ID:77u3EOn3O
すみません、酔っ払って安価ミスりました。
僕は狂っていた。
ごめんなさい。
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ムシ
- 2008-09-25 (木)
- 忍
720 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/07(月) 11:38:52 ID:e2OLa+duO
養護施設では毎年春休みになると部屋変えの行事がある。
幼児組の面倒を見なければならない一号室に振り分けられる可能性のある女子には一年の間で最も大事なイベントだ。
そして、ようやく忍と別室になれるという希望を抱いていた僕にとっても。
各自それぞれが寮母から段ボール箱を貰い、机や棚の中の荷物をしまっていく。
忍はひどく楽しそうに少ない荷物を箱に放り込んでいた。
養護施設では毎月一度は家族と面会出来る機会があり、その時に外出許可を貰えれば家族と出掛けていく場合も多い。
そして、そんな子は外出先で買って貰った物で箱がいっぱいになる。僕は度重なるトンコのせいで面会も禁止されていたことがしばらく続いていた。
だから忍同様、必要最低限な荷物しかなかった。最後に机の中や棚まで雑巾で拭いて隣を見ると忍は、まだ机の上と畳の上に荷物を残して難しい顔をしている。
部屋割りの発表はもうすぐなのに忍は何をしているんだろうと、ふとした好奇心から手元を覗き込んだ。
息が止まった。
ジャムの空き瓶に芋虫がびっしり入ったのや、干からびた何かが同じくびっしり入ったのを見つめながら忍は悩んでいた。
「何それ?ゴミなら捨てろよ。早く荷物整理しないと」
こちらを向いた忍に話しかけたが質問はするべきじゃなかった。
「これは蓑虫でこっちは…」
「いや、もういいから。はい、ぶいぶい」
ぶいぶいは、この養護施設にだけ通じる言葉で一方的に話を打ち切ったりする時に多用される。
721 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/07(月) 11:40:02 ID:e2OLa+duO
「こいつらは共食いしないんだよな。ま、何事も経験だけど。失敗作でも愛着あるから捨てるか、どうするかと」
「捨てろ。新しく同室になった奴が見たら悲鳴あげるぞ」
部屋は年少組から順番に扉近くに配置されている。同じ学年の忍と僕は当然、隣になる。だが、新二年生になるのは僕や忍を含めて三人しか居ない。
僕は新しく忍の隣で暮らす事になる奴を可哀想に思って出来る限りの忠告をした。
「今度も俺とお前は同じ部屋だから平気」
何故、まだ発表されてない部屋割りを忍が知っている?
忍は春休みに入ってすぐに寮母と園長に自分と行動を共にするようになって僕は落ち着いたから、トンコをしなくなったと話したらしい。だから、次も同室にしてあげて欲しいと僕のために頼んだと言った。
園長達はそれを承諾したようで本来なら、年長者は下の子達の面倒を見るために均等に振り分けられるはずなのに僕と忍は中二の一年間も同室になった。
部屋は三号室から二号室に移動はしたものの僕の左隣には忍が居て、右隣は古いエアコンが置いてある板の間があり窓に面している。
何と言うトンコに恵まれた配置。二階の窓から下に降りる気にさえすれば深夜に抜け出す事が容易に行える。過去に何度もトンコをした経験から、ついそういう事を考えてしまう。
「俺、気配に敏感だからお前が夜中に起きたら分かるからな」
僕の脳内会議を見透かしたような忍の言葉。
722 : ◆DJINKbmZw2 :2008/07/07(月) 11:41:42 ID:e2OLa+duO
そして、その蓑虫やら干からびた何かは新しく三号室の室長になる人の机の下に隠された。
ご丁寧に机の奥の足の隙間に簡単には見つからないように。
春休みが終わる直前に三号室の新しい室長は両腕と両足の付け根のリンパ腺が化膿して、手術のために一泊入院をした。
高二になったばかりの新室長が泣きながら寮母に病院に連れていかれるのを見て、忍は笑っていた。
ひどく楽しそうだった。それが蠱毒という呪いだと知ったのは僕が施設を出てからだった。あの時、知っていたなら忍が通学路や施設の裏庭で色んな虫や蜥蜴や蛇を探して、捕まえる事を止めていたと思う。
知らなかったせいで人が亡くなったのはまだずっと先の話になります。
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